この記事は次の項目について書いています。
• 直流電力と交流電力の違い
• 有効電力・無効電力・皮相電力の関係と説明
• 力率の求め方と遅れ力率と進み力率
直流電力と交流電力の違い
直流電力
直流回路の電力は、単純に電圧と電流の積になります。
負荷の電圧と回路に流れた電流だけで、その他の要素はありません。
そして、電源の電圧は一定で、回路を流れる電流も負荷に応じて一定です。

交流電力
交流電力は直流電力と違って、考慮する要素があります。
電圧、電流には実効値を使います。
電圧と電流には位相差があリます。
電力を消費する割合を示す力率などがあります。

交流電力 \(P\) は、電圧と電流の実効値を \(V、I\)、その間の位相差を \(θ\) とすると
次の式で表されます。
\(P=VI\cosθ\quad[\rm W]\)
交流電力には、有効電力 \(P\) 、無効電力 \(Q\) 、皮相電力 \(S\) がありますので、次にそれぞれについて説明します。
有効電力・無効電力・皮相電力の関係と説明
有効電力 \(P\)・無効電力 \(Q\)・皮相電力 \(S\) と位相 \(θ\) の関係は、次の図のようになります。
有効電力・無効電力・皮相電力の関係を数式で表すと、次のようになります。
皮相電力2=有効電力2 + 無効電力2
皮相電力\(=\sqrt{(有効電力)^2+(無効電力)^2}\)=\(\sqrt{(VI\cosθ)^2+(VI\sinθ)^2}\)
\((\cos^2θ+\sin^2θ)=1\) なので、次のようになります。
皮相電力\(=\sqrt{(VI)^2(\cos^2θ+\sin^2θ)}\)=\(\sqrt{(VI)^2}=VI\quad[\rm VA]\)
有効電力とは
有効電力は \(P\) で表し単位に \([W]\) ワット を使います。
\(P=VI\cosθ\quad[\rm W]\)
電力は \(P=VI\cosθ\) で表されますが、これは実際に負荷で消費される電力(消費電力)のことで「有効電力」といいます。
単に電力と言ったら、この有効電力のことをいいます。
\(\cosθ\) のことを 力率(power factor) といいます。
力率=\(\cfrac{有効電力}{皮相電力}=\cfrac{P}{VI}\) で表されます。
\(\cos0°=1, \cos90°=0\) のように 1~0 の値なので、普通は 100倍してパーセントで表わします。
力率(%)=\(=\cfrac{P}{VI}×100\quad[%]\)
無効電力とは
電圧と 90° の位相差のある電流 \(I\sinθ\) と電圧 \(V\) の積は、無効電力といいます。
この無効電力は実際に負荷で電気エネルギーとして消費されない電力のことです。
無効電力は \(Q\) で表し単位に \([\rm var]\) バール を使います。
\(Q=VI\sinθ\quad[\rm var]\)
\(Q=VI\sqrt{1-\cos^2θ}\quad[\rm var]\)
負荷に接続されている電動機(モーター)などの、誘導性リアクタンスや静電容量による容量性リアクタンスにより発生します。
皮相電力とは
単に交流の電圧 \(V\) と電流 \(I\) の積を皮相電力と言います。電源から送り出される電力です。
皮相電力は \(S\) で表し単位に \([\rm VA]\) ボルトアンペア を使います。
\(S=VI\quad[\rm VA]\)
力率とは
図のような交流回路があります。
交流電源に 20[W] の負荷を接続した時の、実際の電力を電力計で測定したところ 25[W] の消費電力でした。
電力の関係を図で示すと、次のようになります。
有効電力 \(P\) [W]\(\cdots\)負荷で実際に消費される電力です。
無効電力 \(Q\) [var]\(\cdots\)電力を消費しない分の電力です。
皮相電力 \(S\) [VA]\(\cdots\)電源から送られる電力です。

このように、送られた電力がすべて、負荷で消費されるわけではありません。
上の例なら、無効電力は \(25-20=5\) となりそうだが、交流電力ではその様になりません。
有効電力 \(P\)・無効電力 \(Q\)・皮相電力 \(S\) には、次のような関係があります。
\(S^2=P^2+Q^2\) という関係があるので
\(25^2=20^2+Q^2\) から
\(Q=\sqrt{25^2-20^2}=15\) になります。
したがって、上の回路の力率は
力率=\(\cfrac{有効電力}{皮相電力}=\cfrac{20}{25}=0.8\) で表されます。
有効電力は
\(P=S\cosθ=VI\cosθ\) [W] ですから
\(\cosθ=\cfrac{P}{S}\) です。
\(\cosθ\) のことを力率(power factor)といいます。
力率=\(\cfrac{有効電力}{皮相電力}=\cfrac{P}{S}\)\(=\cfrac{P}{\sqrt{P^2+Q^2}}\) で表されます。
\(\cos0°=1, \cos90°=0\) のように 1~0 の値なので、普通は 100倍してパーセントで表わします。
遅れ力率と進み力率の違い
位相でもそうですが、遅れと進みということがとても分かりづらいものです。基準のとり方により遅れと見ることも、進みと見ることもできるからです。
力率についても遅れと進みがあり、自分自身でもとてもややこしい思いをしていました。次のように考えると分かりやすいと思います。
遅れ力率
遅れ力率のときは、無効電力 \(Q\) が正になります。有効電力 \(P\) は正になります。
\(\cfrac{Q}{P}>0\) なので遅れ力率になります。
これは誘導リアクタンスが容量リアクタンスより大きいことを見てもわかります。

進み力率
進み力率のときは、無効電力 \(Q\) が負になります。有効電力 \(P\) は正になります。
\(\cfrac{Q}{P}<0\) なので進み力率になります。
これは誘導リアクタンスが容量リアクタンスより小さいことを見てもわかります。

練習問題
例題1
図のような、抵抗とコイルの直列回路において、力率と電力を求めよ。

考え方
回路のインピーダンスを求め、流れる電流を出します。インピーダンスと電流が求められれば、力率と電力は計算することができます。
<解答>
\(Z=8+j6\)
\(Z=|Z|=\sqrt{8^2+6^2}=\sqrt{64+36}=\sqrt{100}=10\) [Ω]
\(I=\cfrac{E}{Z}=\cfrac{100}{10}=10\) [A]
力率 \(\cosθ=\cfrac{R}{Z}\)\(=\cfrac{8}{10}=0.8→80\) [%]
電力 \(P=EI\cosθ=100×10×0.8=800\) [W]
例題2
皮相電力が\(3\)KVAの交流電動機があります。力率が\(0.8\)で運転している場合、有効電力、\(\sinθ\)、無効電力を求めよ。
<解答>
皮相電力\(S=VI\)
有効電力\(P=VI\cosθ\)
\(\sinθ=\sqrt{1-\cos^2θ}\)
無効電力\(Q=VI\sinθ\) の式から、次のように求められます。
有効電力\(P=VI\cosθ=3000×0.8=2400=2.4\)[kW]
\(\sinθ=\sqrt{1-\cos^2θ}=\sqrt{1-0.8^2}=0.6\)
無効電力\(Q=VI\sinθ=3000×0.6=1800=1.8\)[kvar]
例題3
100Vの交流電源に、消費電力120W、力率60%の負荷が接続されています。
回路に流れる電流を求めよ。
考え方
消費電力は有効電力と等しいので、有効電力\(P=VI\cosθ\) から電流\(I\)を求めます。
<解答>
有効電力\(P=VI\cosθ\) より \(120=100×I×0.6\)
\(I=\cfrac{120}{100×0.6}=2\) [A]
例題4
図の交流回路において、\(R_2\) の消費電力を求めよ。
考え方
\(R_1、I_1\) がわかっているので、電源電圧 \(E\) が求められます。
\(R_2、X_L\) の合成インピーダンスを求めて、\(R_2\) に流れる電流を求めれば消費電力は計算できます。
<解答>
\(E=R_1I_1=10×10=100\) [V]
\(R_2、X_L\) の合成インピーダンス \(Z_2\) は
\(Z_2=\sqrt{16^2+12^2}=20\) [Ω]
\(R_2\) に流れる電流 \(I_2\) は
\(I_2=\cfrac{E}{Z_2}=\cfrac{100}{20}=5\) [A]
\(R_2\) で消費する電力 \(P_2\) は
\(P_2=I_2^2R_2=5^2×16=400\) [W] になります。
例題5
図のような交流回路で、コンデンサ \(6\) [Ω]の端子電圧は\(12\) [v]でした。
この回路の電源電圧と回路の消費電力を求めよ。
考え方
<解答>
負荷に流れる電流を図のように、\(I_1、I_2\) とします。
コンデンサ \(6\) [Ω]の端子電圧から電流 \(I_1\) は
\(I_1=\cfrac{12}{6}=2\) [A]
抵抗 \(8\)[Ω]とコンデンサ \(6\)[Ω]の合成インピーダンス \(Z_1\) は
\(Z_1=\sqrt{8^2+6^2}=10\) [Ω]
電源電圧 \(E\) は
\(E=Z_1I_1=10×2=20\) [V]
抵抗 \(4\)[Ω]とコンデンサ \(3\)[Ω]の合成インピーダンス \(Z_2\) は
\(Z_2=\sqrt{4^2+3^2}=5\) [Ω]
抵抗 \(4\)[Ω]とコンデンサ \(3\)[Ω]に流れる電流 \(I_2\) は
\(I_2=\cfrac{20}{5}=4\) [A]
この回路で消費される電力 \(P\) は各抵抗で消費される電力です。
\(P=8×I_1^2+4×I_2^2=8×2^2+4×4^2=96\) [W]
参考
RL回路の電力
直流回路の電力は、電圧と電流の積 \(VI\) で表すことができます。
しかし、交流回路の場合は、電圧と電流が時間によって変わりますので、瞬時の電力 \(p\) は電圧と電流の積 \(ei\) で表すことが出来ます。
この関係を示したものが下図の(b)で、この瞬時電力を1周期について平均したものが電力 \(p\) となります。
単位は [W] ワットを用います。

図(b)において、電力を求めると
\(e=\sqrt2V\sinωt\) [V]
\(i=\sqrt2I\sin(ωt-θ)\) [A]
\(p=ei=\sqrt2V\sinωt×\sqrt2I\sin(ωt-θ)\)=\(2VI\sinωt×\sin(ωt-θ)\)
\(\sinα\sinβ\)=\(\cfrac{1}{2}(\cos(α-β)-\cos(α+β))\)
上の式を加法定理で展開すると
\(p=2VI×\cfrac{1}{2}(\cos(ωt-ωt+θ)\)-\(\cos(ωt+ωt-θ))\)
\(p=VI\cosθ-VI\cos(2ωt-θ)\)
\(p\) の平均が電力 \(P\) になるので
\(P=pの平均=VI\cosθの平均\)-\(VI\cos(2ωt-θ)の平均\)
ここで、
\(VI\cosθの平均=VI\cosθ\) となり
\(VI\cos(2ωt-θ)の平均=0\) なので
\(\therefore P=VI\cosθ\) [W]
コイルやコンデンサだけの場合の電力
誘導性リアクタンスだけの回路の電力は次の図のようになります。
同様に容量性リアクタンスだけの回路の電力は次の図のようになります。
負荷がコイルやコンデンサだけの時は、電圧 \(e\) と電流 \(i\) の位相差が \(π/2\) になります。
そのために瞬時電力 \(ei\) の積 \(p\) は1/4周期ごとに
正の電力 ①、② と負の電力 ③、④ がくり返されますので、電力 \(P\) はゼロになります。
つまり、L(インダクタンス)やC(コンデンサ)は、電力を消費していないことになります。
ところで、正の電力とは発電所から送られる電力です。
では、負の電力とは何でしょう。
これは発電所の方に「送り返す電力」を示しています。
図の(a)、(b)で言うと ①、② で消費した電力を ③、④ で電源側に送り返していることになります。
以上で「交流電力と力率」の説明を終わります。